陰鬱

考えたこと,感じたこと,思ったことを書く。https://schizzoid.web.fc2.com

なぜ人は苦しみから抜け出せぬか1

掲示板や引きこもり支援(休止)などを通して、精神的不調に陥っている様々な人と交流してきた。その中で、本当に心身共に全回復したような人間を僕は見たことがない。そして、僕自身も妄想的偏執的な精神病症状を呈することもパニックを起こすことも少なくなったが、いつまた壊れ始めるか分からない。今だって、寂しさに怯え続けている。では、何故人は一度暗闇のトンネルに入ると、抜け出すことができないか。様々なケースを参考に、その理由を挙げられるだけ挙げてみたいと思う。

・母親との信頼関係、愛着形成構築の失敗
フロイト精神分析の頃から、母親との関係は重視されてきた。また、ホスピタリズム施設病)は、母親の不在によるものだと考えられてきた。※ホスピタリズム:母親の居らず施設生活を送る子供たちに共通して、精神的にも身体的にも発達の遅れを呈する

f:id:unkodaisukifunclub:20200608015612j:plain

この世界に生誕し、初めて出会うのが母親である。動物行動学のローレンツは、刷り込み現象(インプリンティング)を発見した。これは、生後間も無く初めて見たものを親と認識するものである。ローレンツはガチョウの幼鳥が誕生したときに、その場にいた。すると、ガチョウはローレンツのおじさんを親と認識し、ヒョコヒョコとついてきたのであるf:id:unkodaisukifunclub:20200608015402j:plain
この本能的な母親探索は、ヒトにも適用できる。もちろん、赤ん坊は生後数ヶ月は色々な人に興味を示すものの、徐々に母親を必要不可欠な存在と認識し、母親が離れると泣くようになる。しかし、愛着形成が上手くいかないと、母親が離れても平気でいられるのだという。エインズワースのストレンジシチュエーション法から分かるように、子どもは母親が離れると、不安で泣くのが一般的な反応であり、戻ってくると安心して泣き止むのである。しかし、母親が離れても泣くことのない場合もある、帰ってきても嬉しそうでもない。そういう反応をとる子どもは、愛着形成が上手くいっていない証拠なのである。f:id:unkodaisukifunclub:20200608015513j:plain

f:id:unkodaisukifunclub:20200608015802j:plain

ボウルヴィは愛着理論を提唱した。母親との信頼関係があって初めて、様々な感情や認知を発達させる。そして、母親が安心できる存在だと認識することで、母親を安全基地として、子どもは自由に一人で活動することができるのだ。母親との愛着形成が、情緒や認知、発達の基礎と言っても過言ではない。
愛着形成に失敗すると様々な不適応が生じる。比較的早期の頃から見られるのが、愛着障害(アタッチメント障害)である。
反応性アタッチメント障害は過度に人を警戒するようになる一方で、脱抑制型愛着障害は、過度に知らない人にも馴れ馴れしく接することで知られている。しかし、どちらも持続的に人と関わることが難しい。また、得られなかった分の愛を求めて、様々な不適応行動を取ることもある。母親との根本的な信頼関係が得られなかったので、人を信頼することも難しい。心身や認知の発達にも影響を及ぼす。
しかし、成人愛着理論のように、親との関係がたとえ上手くいかなかったとしても、母親以外の人間、例えばパートナーだろうか、そういった心から信じられる人を見つけ出した時、得られなかった分の愛が充足され、愛着形成失敗の弊害は薄れるとも言われている。要するに、愛が足りなきゃ、愛と信頼を受ければいいのである。親は唯一無二の存在だが、だからといって、愛を貰えるのは親だけではない。恋愛でも隣人愛でも別に問題はないのである。もちろん、母親という存在だけが心理的不適応の原因とはならないのである。母親との愛着形成ができていても、後天的環境的な問題も十分考慮されるべきである。

つづく