陰鬱

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君へ

 あまりに唐突な別れだった。ちょうど父方の祖父が亡くなった通夜が終わり、LINEを見ると君のお別れのメッセージが目に入った。通夜の疲れと、祖父の儚く尊げな亡骸を目の当たりにして、雨水滴る道すがら、僕は君が居なくなることを知った。通夜や日頃の諸々の疲れからか、そのメッセージはあまりにも唐突で、僕は呆気に取られ、その場では何の感情も抱かず、ただその事実を事務的に受け止め、帰路に着いた。

 正直に言うと、まだ君のことを深く愛し、その愛の灯火が燃え盛っていた頃であったら、その衝撃に涙を浮かべ身震いでもしていただろう。でも、僕は君が去る事実を淡々と受け止めてしまった。僕の心は君の元を離れ、もう恋愛心というものは、消えいってしまったと思った。

 しかし、通夜も終わり、日々の体の疲れも取れ、やっとほんの一息心の余裕ができた時、僕は何か物思いに耽る時間的精神的余裕を得た。こうして僕の観想の材料となるのが、専ら過去の想ひ出である。小中学校での苦難多き中にも楽しみがあった学校生活や、今や疎遠になった知人たちとの想ひ出を回顧すると、何となく今の空しき現状と孤独な身の上を思って、どうしようもない虚無感に襲われる。そうして、僕の記憶の中でもとてつもなく異彩を放ち、そして儚くも美しき記憶が、君だった。たった一年と少しの思い出で、長い間話もせずにいた空白の期間があるにも関わらず、君との短い期間は、僕にとって宝物であり、生きる糧である。今でもそうだ。結果的にお互い傷つくことも多く、どちらかと言うと辛いことばかりだったかもしれない。それでも、たった少しでも君から愛されていた事実と、君と本気で向かい合えた日々と、一緒に映画を見たり、通話したりした思い出は、僕の中で永遠のものとなり、そして今も色褪せることの無い想ひ出だ。今になって言えるが、いや君から離れてみて初めてわかったことだが、君と出会えて本当に幸せだった。そして、何よりも僕が今後誰から愛されて、僕が誰を愛しようが、僕は君を一番愛していた。それは揺るぎのない事実だ。

 君との一年の間に、僕のライフイベントも色々な変化があった。ケチな守銭奴にも関わらず、君のためとバイトを始めたり、コロナ禍の学校生活はオンラインだった。君との関わりを通して、傾聴や批判無くありのままに相手を受け止める重要性を知り、そして何よりも愛される幸せを知ったと思う。それが叶わぬ永遠の幸せであったとしても。君のおかげで、僕個人は大きく成長し、社会性と思い遣りというものを、深く知れた気がするのです。君のおかげで成長できたと思うのです。

 そんな君に対して、君がたまに漏らしていたように、僕は恋愛心を失くしてから、何となく君から興味や隣人愛といったものを、徐々に失ってしまっていたと思う。君が苦しい時になるべくラインや通話をできるように心掛けたが、それはどれも事務的なもので、そこに積極性や慈愛の念というものが欠けていたことは認めざるを得ないと思う。本当にごめんなさい。自分的にも情緒が安定しなかったり、ストレスに弱いタチであるけれど、昔のような自己犠牲的な愛を失ってしまっていた。

 いつか、このブログに僕はサン=テグジュペリ星の王子さま』の一節を載せていたと思う。星の王子さまが自分の惑星に自生した薔薇に恋をする。その薔薇はとても生意気でありながらも、繊細で美しく、そしてその薔薇とお別れして、星の王子さまは初めて一番身近に存在した薔薇の尊さと、その愛情を知るのである。僕はその薔薇を勝手に君に例えていた。恥ずかしい話だが。

 人は失って初めて大切なものに気付く。その大切なものは、概して身近な存在であると思う。それが君なのだろう。まもるくんを亡くした時もそうだ。最初は呆然としているが、失った代償は後にひしひしと私を締め上げるものである。身近過ぎる故の悲劇。私が彼からどれほどの勇気とそして愛情を貰っていたかと思う。僕のような偏屈な人間に、興味を持ってくれて、そして率先して僕と関わってくれた彼。僕は彼から知らぬうちに寂しさを埋めてもらい、そして生きる意味を見出していたのでしょう。

 それは君も同じだ。君はとてもとても僕にとって身近であって、なにとなく、君のLINEで繋がっているだけで、おそらく心の何処かで安心していたのでしょう。しかし、安心は慢心でもあります。身近過ぎると、ついその有り難みも忘れて、つい態度は尊大になってしまうものです。そして、いざ君が居なくなってしまうと、僕の心はぽっかり大きな穴が空いたようで、その穴から世間の厳しさと冷たさの風が吹き抜けていくもので、なかなか辛いものがあります。私は馬鹿なものです。今になって君の尊さに気付いた。ここ最近なんだか陰鬱な気持ちでいたが、その大きな要因になっているのが、君の喪失でしょう。

 僕のような風変わりで、馬鹿げた人間に、君はたくさんお話をしてくれて、たくさん君のことを聞かせてくれて、そして僕の寂しさを埋め、楽しませてくれた。もうそこに愛情の有無は関係ないと思う。僕とこんなにも長く、そして深く関わってくれた君には、感謝してもしきれない。君の孤独感が原動力となっているのか分かりませんが、君のその無邪気で構ってちゃんな所は、とても可愛らしく、女の子らしく、そして一番の魅力ではないでしょうか。私は何よりもそこに惹かれたのかもしれません。きっと君がストレス無く、不自由なく暮らしていれば、より快活で明るい子であったかもしれません。けれども、今まで苦しみを知ってきた分、君の繊細な感受性や芸術的側面を養ったとも言えるでしょう。何よりも、知的で繊細な側面を有しながらも、度々見せるおてんばな姿の二面性は、君をより輝かせているのでしょう。

 ここ最近は色々と大変だったみたいですね。彼のことで悩むこともあれば、教習所での理不尽な仕打ちにも耐えてきた。ここまでのストレスフルな出来事が一気に訪れることはそうそう無かったでしょうから、とてもつらいと思う。今になって思うが、もっと君を労い、肯定して、褒めてあげたかった。ごめんね。こんな場を借りるのはとても残念だけど、本当によく頑張ったと思う。君は誰が思っているよりも、案外辛抱強く、そして悲しみに打ち勝つ力を持っていると思う。君は如何なる時も、結局はは一人で立ち向かってきた。本当に偉いと思う。頑張ったね。

 そんな君だからこそ、僕は幸せになってもらいたいと思う。今の恋人であろうが、他の恋人であろうが、誰かにありのままに受け入れて貰って、そして得られなかった分と今まで頑張った分、沢山愛してもらって、そんな幸せな日々が来ることを願っています。正直、君の話から推察するに、恋人はとても誠実でしっかりしているとは思えない。将来的にもおそらく破綻するのではないかと憂慮している。でも、そんな他人の心配は、君にとって関係ない。そこに確かな愛があるなら、きっと永遠の愛を成就できる可能性は大いにある。だから、何があっても彼を信じ続けるといい。僕は一年しか信じられなかったが、それでも僕は君を愛し続けたつもりだ。少なからず、変わってくれると信じて。そして、君はちゃんと今変わっているのだから。僕は他人からどう言われ、どう思われようが、君を愛し信じ続けたように、今度は君がその人を信じ続けるといい。

 ただ、どうか怒りをぶつけて、罵詈雑言を彼に浴びせるのだけは控えたほうがいい。そこに、愛はもうないと思う。愛故の怒りであろうと、相手には決して伝わらず、伝わるのは不信感だけである。これからも、辛いことや怒り、諸々の衝動的な感情を抱くと思う。それを、他の人なり、発散させるのがやはり大事だと思う。人は助け合い生きていくのだから。彼は繊細だから、余計気をつけた方がいいだろう。

 僕は彼に依存して、他の人と関わるのを辞めるのはあまり良くないと思う。やはり、色々な人と交流し、視野の幅を広げた方が、視野狭窄にならないし、それにストレスの発散にもなるだろう。依存はまた愛の一形態かもしれないが、かといって健全な形とは言えないと思う。一対一で愛し合うのが、究極的な愛の形態かもしれないが、そこに綻びが生じた時、その関係は最も容易く滅びてしまうと思う。だから、辛い時はまた僕の元に帰ってきてくれ。別にまた愛してくれとは微塵も思っていない。ただ、君が一人で苦しむのは嫌だし、僕もまた君と話したいのである。

 僕と君は恋人にはなれないし、結婚することもないだろう。でも、良き親友にはなれると信じている。残念だが、僕は君の怒りや理不尽さのトラウマをあってか、関わることに萎縮していたが、今度もし君が帰ってきた時は、より一層君と関わって、仲良くしたいと思う。だから、君もなるべく僕のつまらぬ話にも耳を傾けて、穏やかに接して歓迎して欲しい。そうしたら、僕は君をまた大事にできるだろう。君は四国の僻地から都会へと身を移すか分からないが、もし君が僕の近くに居を構えたとするなら、たくさん遊ぼうではないか。それに困った時はお互い協力しようではないか。大人になって自立すれば、出来ることもたくさんあるだろう。君がどう思っているか知らないが、僕は君を今でも大事に思っている。だから、もし君がまたいつか僕と関わってくれる日があるなら、僕はそれを待ち続けている。かつての旧友も、まもるくんも失った僕にとって、君は数少ない親友だと思っている。恩返しする時を楽しみにしている。もう君にたいして関心がないと思っているかもしれないが、僕は君のことをまだ大事に思っている。それを伝えたかった。

 長くなってしまった。色々と迷惑をかけてしまったと思う。勝手に異性と関わったり、人間不信になるような不安な言動も沢山とった。君の愛を蔑ろにして、泣かしたこともあっただろう。本当にごめんなさい。まだあの頃、僕は愛というものを知らず、女の子の気持ちというものも知らず、そして理性ばかりに目が眩んで、愛情や信頼、安心といったものについて何も知らない無知で大きな赤子に過ぎなかったと思う。いつか君の目の前で全て謝りたいと思う。

 君なりの幸せを掴んでほしい。そして、君なりの生き方で、どうか生きていって欲しい。やはり、人は生きているからこそ、尊いものだと思う。今後君と会うことがなくても、君が同じ星の下で生きているというその事実だけで、僕はどれだけ救われるだろう。いつ帰ってきてもいい。今度はなるべく僕も君を大切にしようと思う。今までありがとう。また逢う日まで。お元気で。


2021/3/30