男の悲しき運命
そうそう、奴は愛情に飢えているのだ。といっても、彼は単純に甘えたいのである。優しい女の子(ママ)に甘えたいのだ。精神的不調から一時的に幼児退行を起こしていると言えなくもない。しかし、これはユングの元型でいうアニマの側面が噴出しているからではないか。
ユングは自我や自己の根本に幾つかの元型があると推定した。そして、ペルソナ,シャドウなどの諸元型に含まれるのがアニマだ。
アニムス(女性の中の男性的側面)に対して、アニマは男性の中の女性的側面である。もちろん、普段はアニマのような元型は無意識の内に隠れているが、精神的状態や環境要因を媒介して、意識のうちに現れてくることがあるのだろう。そして、僕も一時期赤ちゃんになったように思えたが、よく考えればアニマが噴出した結果だったのではないか。要するに、僕は女の子になっていたのかもしれない。
といっても、これはステレオタイプに過ぎない。男性が強く凛々しくあり続け、女性を守る役割を果たす、女性は優しくお淑やかで、誰かに甘えたがる、といったような従来の性的役割,性的観念に固執しているが故の僕の妄想とも言える。といっても、やはり女の子に甘えようとする気持ちは社会的通念!!から見ては逸脱行動とも捉えられかねない。例えば、夫は働き、妻は子どもを育て愛する。家に帰ってきた夫が、子どもと一緒に甘えていては気持ちが悪いだろう。いや、僕は気持ちが悪くないが、一般的には歓迎されないことだ。
こうして、彼は何らかの要因があって、今女の子になっている。誰かに甘えて、抱きしめられて、よしよしされたいと思っているだろう。これを情けないと一蹴するのも簡単だが、やはりかわいそうだ。なにか一人でも彼を慰めてあげられる人が居ればと思う。そもそも、男が甘えてなにが悪いのだ。とも思う。しかし、普通なら相手に呆れられてしまうのだ。それが社会的、いや本能的な通念に照らし合わせて、異常だからである。
しかし、僕や彼だけではない。デレステに登場するアイドルの中で、櫻井桃華,橘ありす,佐々木千枝といったような所謂ロリキャラが存在するわけだが、そんな幼い子どもを「ママ」と呼ぶ風潮が存在するのだ。それは果たしてネタなのか、それとも現なのか。純粋たる、そして包容力のある子どもに母性を感じる奴らがいるのだ。「男は甘えるべきではない」と言ったような社会的通念が変わりつつあるのか、それとも母性を求め、女の子にならねばならない荒んだ社会が生み出したモンスターが我々なのか。男は、女々しくてはいけないのか。